第9章

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とある出版社だと校正に留まらず「校閲部」自体があるらしい。 校閲は単なる文字の校正で留まらず、意味や事実確認まで行う。 時系列や季節感の間違いや不突合はもちろん、舞台となる場所や話の中の違和感までも校正するらしい。 例えば、「時系列からその日が満月なのはおかしい」という具合だ。 俺も編集者として、まどかの描写を壊さずに完璧にしたいと思っていた。 だが、本屋の店頭に並ぶまで、やることがたくさんある。 校正だけに時間は掛けられなかった。 と、思ったところで、まどかと園子さんに会えたのは1週間後、めっきり秋の気配になった徹夜続きの後だった。 「眠そうね……」 ソファのいつもの場所に座ったまどかが言った。 「はい。……いえ、大丈夫です」 少しぐでっとしてた背中を伸ばした。 「で、直しは?」 まどかが、とりあえずという感じで聞いた。 「ないです。驚きました」 「そう?まあ、今までもそんなに直したことないのよね」 「それはすごいですね……」 やっぱり、まどかの構成力と計算力、そして記憶力か……、それらがすごいということだ。 どの部分で何を書いたか覚えてないと、直しもせずに全てが繋がるわけがない。 まあ、表記揺れは今のワープロなら簡単だが、まどかの場合それも使っていないかもしれない。 「ということで後は本のデザインとかですが、何か希望はありますか?」 まどかは少し考える感じだったが、 「急ぐんでしょ?任せるわ」 と言った。 まどかには、四季賞のことは承知のことだった。 「わかりました。満足いただけるものにしてみせます」 俺は頭を下げた。 その後は、あらためて園子さんの手料理で入稿のお祝いをした。
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