873人が本棚に入れています
本棚に追加
/240ページ
とある出版社だと校正に留まらず「校閲部」自体があるらしい。
校閲は単なる文字の校正で留まらず、意味や事実確認まで行う。
時系列や季節感の間違いや不突合はもちろん、舞台となる場所や話の中の違和感までも校正するらしい。
例えば、「時系列からその日が満月なのはおかしい」という具合だ。
俺も編集者として、まどかの描写を壊さずに完璧にしたいと思っていた。
だが、本屋の店頭に並ぶまで、やることがたくさんある。
校正だけに時間は掛けられなかった。
と、思ったところで、まどかと園子さんに会えたのは1週間後、めっきり秋の気配になった徹夜続きの後だった。
「眠そうね……」
ソファのいつもの場所に座ったまどかが言った。
「はい。……いえ、大丈夫です」
少しぐでっとしてた背中を伸ばした。
「で、直しは?」
まどかが、とりあえずという感じで聞いた。
「ないです。驚きました」
「そう?まあ、今までもそんなに直したことないのよね」
「それはすごいですね……」
やっぱり、まどかの構成力と計算力、そして記憶力か……、それらがすごいということだ。
どの部分で何を書いたか覚えてないと、直しもせずに全てが繋がるわけがない。
まあ、表記揺れは今のワープロなら簡単だが、まどかの場合それも使っていないかもしれない。
「ということで後は本のデザインとかですが、何か希望はありますか?」
まどかは少し考える感じだったが、
「急ぐんでしょ?任せるわ」
と言った。
まどかには、四季賞のことは承知のことだった。
「わかりました。満足いただけるものにしてみせます」
俺は頭を下げた。
その後は、あらためて園子さんの手料理で入稿のお祝いをした。
最初のコメントを投稿しよう!