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それからしばらく経った後、集中治療室には、予防衣を着させられマスクをしたまどかと園子、そして主治医と看護師がいた。
まどかの前にはいろんなコードやチューブが繋がれた幸次郎がベッドに横たわっていた。
「……なんで?」
まどかは声を絞り出すように言った。
「井上さん、四季賞の授賞式に来ようとしてたんです。でも、私の目の前でバイクにはねられて……」
「え?うそ……だって、さっき会場で……」
まどかは驚いた。
「何言ってるんですか先生。井上さんがここに運ばれて来たのは、授賞式が始まる前ですよ」
「そんな……」
まどかは確かに幸次郎と会った、そして話した。
あれは彼女の見た幻だったのか。
「ケガは大したことありません」
緑の手術着を着た主治医が言った。
まどかはゆっくり振り返って彼を見た。
「ただ、頭を強く打ってるので意識がいつ戻るかどうかはわかりません。……それに戻るかどうかも」
「うそ……」
まどかはゆっくり首を振った。
「うそでしょ?」
すがる様な視線で主治医を見た。
主治医とその隣の看護師は、少し俯いて何も言わなかった。
「コジロー」
まどかは膝を付くと、幸次郎の右手を両手で握った。
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