世界のことは、少しだけ知ってる

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~佐藤可純~  私は生きている。……などと、当たり前のことを考えたことは今まで一度もない。  生まれて16年、二ヶ月後の四月には17歳の誕生日を迎える。 「可純、おはよ」 「あ、トモミ、おはよう」   寒さが厳しい二月上旬、私は冷たくなった手を擦り合わせながら学校へ向かう。吐く息は白くて、雲の覆った灰色の空に同化した。  後ろから声をかけてきたトモミは、こんなに寒いのに朝から元気だ。 「今日雪降るらしいね!」 「えー……今日の体育マラソンなのに」  寒さに弱い私は肩を落とすが、体を動かすことが大好きなトモミの方は、何ともないって感じの顔をしている。  登校ピークの今の時間帯は、学校周辺は生徒で溢れる。私はいつもこうやって途中でトモミと合流し、二人一緒に行くことが多かった。  ……でも、たまに、こうやって 「よっ」  校門を潜る直前、後ろから声をかけられた。その声に敏感に反応し、私はパッと後ろを振り返る。  そこにはクラスメイトの島津佑馬(しまづゆうま)君が立っていた。  目が合うと、ニカッと音の出るような笑顔を向けられ、私はペコリと頭を下げる。 「今日寒いね」  彼は制服の上からキャメル色のダッフルコート羽織っていて、ポケットに両手を突っ込んでいる。島津君は鼻を赤くして啜った。  でも今日も一際爽やかで、彼の笑顔を見た途端、世界が色見を加える。今まで薄暗かった空が、私にとっては一瞬で晴れ間を見せた。 「トモミ、マフラーも手袋もなしで大丈夫なの」 「可純に追いつくために走ってきたから、今ちょうどいいくらい」 「お前ヤバ……」  中学の頃から友達だったトモミは、島津君と仲が良い。彼の方も私に話しかけた、というよりは、トモミに絡みにきたって感じ。  水泳部に所属している島津君は、今日も通学鞄の他に水泳バックを肩にかけていた。  何気なくじーっと見つめると、視線に気付いたらしい彼は私の目の前で手をブラつかせる。 「佐藤、どうかした?」 「ううん、何もない。島津君、水泳部だったなって……思って」 「そうだよ、何改まってんの」  毎日放課後泳いでるよ、と彼は笑って答えた。
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