あの子の世界に、秘密を見つけた

9/33
前へ
/253ページ
次へ
-佐藤可純 あんな風に『視界』というものが崩れ落ちそうになった出来事なんて、生まれて今まで一度もなかった。 そもそも視界が崩れる、という言葉自体おかしい。 ――あの数分は何だったのだろう。 浴槽の中に顔の半分を沈め、ブクブク考え事をしている時だった。 初めてのことにもうどう表現していいのかさえも分からないが、突然眼前の景色が色を無くし、連綿と続いてきた世界をプッツン、と切り取られたのかと恐怖におののいた。 もはや私の視力が急に落ちた、などという、少々不思議でもまだ現実的な考えを持てるレベルでもない。 惨事をもたらしたのはこの国だけでなく、全世界。 この星を飛び越えた宇宙ではどうだったのだろう。 以後、連日のようにテレビでは、あの夜の数分間についての調査だったり、議論だったりを政治家や研究者達が行っている。 しかし一方で、世界が滅びる前兆だ、神の行ったことだ、いやこれは悪魔のしわざだ、とよく分からないことを言い始める人も出てきたらしい。 でも私は心の中で、本当のことは誰にも分からないような気がしている。 世界については、今まで誰もが分かっていても触れることはなかった。 この世界は"特殊"な空間の中であり、世界も私達人間も何かによって作られている。 何に教わったわけでなく、生まれた時から植え付けられていた知識に、自ら触れようとする者はおらず、今まで何不自由なく暮らしてきた。 それなのに、あの日を境に世界についても研究を始める団体が出てきてしまった。 もう、これからどうなるのか分からない。 しかし一般庶民の自分にとっては、何の手だてもないことは分かっている。 あの日からもうすぐ一週間。 身の毛がよだつ瞬間はなく、私の視界が崩れ落ちることはない。 一応学校も通常授業を再開し、明日には終業式を控えていた。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加