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一週間も経てば、学校内での騒ぎは大分落ち着いている。
まだ完全な大人ではない、思春期真っ盛りの生徒達は目の前のことに夢中で、間近に迫った春休みを楽しみにしていた。
そんな中、私は昨日から空いている一つの席を気にしている。
「佑馬、明日は来るかなぁ」
島津君の隣の席のトモミは、彼のいない机上をバンバン音を立てて叩く。
「どうだろうね。……熱なんだっけ」
「うん、珍しいよねー。いつもプールでずぶ濡れのまま帰っても、風邪引かないとか言ってる人がさぁ」
高校に入学してから島津君が学校を休むのは、多分初めてのことだった。
連絡先を知っているトモミの情報によると、思うように熱が下がらないらしい。
――大丈夫なのかな。
こんな風に気にかけているのは私だけじゃない。
島津君がいないと、明らかにつまらなそうな顔をしている桜子ちゃんは、もっと。
島津君のことを崇拝している、彼のファンクラブメンバーの子達も、もっと。
「家、知ってるならお見舞い行くんだけどね」
「トモミ、知らないの?」
「そこまで深い付き合いじゃないよ。コウタロウも知らないっぽい」
――島津君の家、確か私のうちの近所なんだけどな。
机の中に溜まっている配布されたプリント、確かな場所さえ分かれば届けてあげたかった。
いつ見てもキラキラのオーラを纏っている島津君が弱っている所なんて、想像出来ない。
休んじゃう程、体が重いのだろうか。
――島津君が苦しいのは……やだな。
代われるならば、代わってあげたい。
……とまですんなり思えてしまう私が、彼のことを好きだと言えないのは、やはり自分には何の取柄もなくて平凡だから。
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