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放課後、明日から春休みだね、と言った溝田君は他の人とは違いつまらなそうに見えた。
「溝田君は春休み楽しみじゃないの?」
「うん、俺学校好きだから、正直休みとか一日もいんない」
「へぇ、変わってるね」
かく言う自分も何も予定がなく、バイトでも始めてみようかと漠然と考えているだけで。
ふと空を見上げると、薄明光線が山の中腹に降りていて、木々を淡く照らしていた。
世界が終わるだなんて、ちっとも思わせない光景。
「ねぇ佐藤さん、もし俺がこの世界を征服したらどうする?」
「……何言ってるの」
「もし俺の言うこと聞かないと、世界をめちゃめちゃにしちゃうぞーって言ったら、素直に従う?」
――頭……どうかしたの。
そう思わずにいられない発言を流すことは出来ず、私は引き気味に笑った。
「めちゃめちゃにされるのは困るから、従うんじゃない?」
「そっかそっか」
「不思議なこと言うね」
溝田君は私の反応に満足げな顔をすると、両手を頭の後ろで組み合わせ歩調を緩めた。
彼は何を考えているんだろう。
何も恐れているようでないその笑顔を、当時の私はただ不思議に思うことしか出来なかった。
翌日の終業式にも島津君が姿を見せることはなく、あっけなく一年最後の日が終わってしまった。
また、会えない日が続く。
夏休みも冬休みも彼の見えない日常は、スポイドで色を抜き取ったような毎日で、この春休みもきっと同じことが繰り返されるんだ。
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