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らしくなく途中小銭をばらまく、というハプニングを挟みつつ、島津君が会計を済ませると一緒に外に出た。
「佐藤は何も買わなくてよかったの?」
――あ、そういえば甘い物……ま、いっか。
「それに学校帰りなんだろ、一度家に帰んなくて大丈夫?」
その言葉を耳に、今から本当に島津君の家に一緒に行くのだと自覚し、じわじわ心拍数が上がり始めた。
分かっている、変な目的ではなく、彼はただ話し相手が欲しいだけなのだ。
勘違いなどしていない。
しかし島津君の瞳を前に、トモミと言い争う時のしかめっ面をした桜子ちゃんがパッと脳裏を過ぎった。
家に行くなんて、きっと周りの子からしたらすごく贅沢なことで、一人抜け駆けしているようなもの。
――やっぱりやめといた方がいいのかな……。
それなのに黙り込む私を見ていた島津君は、突如パンッと掌を合わせると、ゆっくり歩き始めた。
「佐藤が来ようかって言ってくれたから、ここは素直に甘える」
優柔不断な私を待ってはくれず、彼は一人前を進む。
「ちょっといてくれるだけでいいから」
「……でも」
「いてほしいんだ。だから、来て」
途中自宅と反対に角を曲がって、新しい住宅街を抜けた先にあった、木造二階建てのアパートを島津君は指を差した。
「ここ。まぁ、見ての通り古いよ」
「この辺、小学生の時よく遊びに来てたよ」
外に設置されている錆びれた鉄の階段に足をかけると、ガン、ガン、と工場の中で聞くような音が轟いた。
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