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ただいま、と言って部屋の中に入る島津君の姿は新鮮で、それだけで私の心は跳ねる。
「ごめん、ゴロゴロしてたから掃除出来てない」
「ううん、大丈夫」
「コタツにでも入っててよ」
台所と繋がった部屋に案内され、島津君はテレビとコタツの電源を入れると私の傍を離れた。
生活感のある部屋だが、本人が言う程散らかってはいない。
収納棚の上にはいくつもの写真立てが置いてあり、中を覗くと幼き日の島津君が笑顔でピースをしている。
――うわぁ……可愛い。
中にはお父さんらしき人物も写っていて、お母さんと三人、皆楽しそうだった。
きっと仲の良い家族だったんだ。
「恥ずかしいから、あんまり見ないで」
「あっ……ごめん」
病人なのにお茶の準備をしてくれた彼は、コタツに入りながら湯呑みに緑茶を注ぐ。
もう四月も近いのに、異常気象の関係で、今年はまだまだ冬のように寒い日が続いている。
うちにもまだコタツを出していた。
「いいよ、私がやる。島津君は寝てないと」
「佐藤はお客様なんだから、何もしなくていいよ」
お客様だなんて、とんでもない。
今日は家政婦くらいに扱われてもいいって思っているのに、島津君は机に顎を乗せ、私の方を見ると目を細めた。
「佐藤が家にいるって不思議な感じ」
「そう……だろうね」
「うん、悪くないね。良い感じ」
ふざけているのだろうか、まぁ喋る気力はあるようで何より。
休んでいる間の連絡事項や学校の状況を伝えると、彼は嬉しそうに頷いた。
会いたかった島津君が、今目の前にいる。
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