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そこ一時間ちょっと経つと、島津君は家に帰るよう促してきた。
でも、と言いかけた私に彼は親指を立てる。
「俺は大丈夫。楽しかった、ありがと」
「夜ご飯は?」
「適当に食べるよ」
結局お茶を飲んでお喋りをしただけで、何をしてあげることも出来なかった。
なのに彼は満足気な顔をすると、体調が悪いのに私を送ると言い出して一緒に外に出てきた。
キンキンに冷えた外気に自分から触れる必要はないのに。
――何だかちょっと、彼女みたいな気分……。
小さな優しさに照れ臭くて俯いてしまった。
島津君に選ばれる未来の彼女は、一体どんな女の子なんだろう。
きっと彼と同じくらい魅力的で人気者。
でも、現時点で私の脳内にハッキリ思い浮かぶ人はいない。
――あれ、それじゃあ桜子ちゃんは?
桜子ちゃんと島津君、美男美女でお似合いだとは思っている。
でも、何だろう、何だかな……。
違うような、違わないような、変なむず痒さを感じながら、出来るだけゆっくり歩を進めた。
すると
「えっ、佑馬君!?それに可純ちゃん!?」
角を曲がった途端、突然素っ頓狂な声が耳に飛び込んできて顔を上げると、今まさに思い浮かべていた桜子ちゃんが、私達に向かって指を差していた。
「ハァ!?何で、どういうこと?」
間十メートル程を全力疾走すると、彼女は勢いよく島津君を私から引き離した。
あからさまな態度に気まずさを感じ、自分も彼らから距離を取る。
何も悪いことはしてないはずなのに、知らずと胸が痛んだ。
「佑馬君、どうしてこんな所にいるの。体調は?」
桜子ちゃんは島津君に質問攻め。
なのに私には彼に近付かないで、とでも言わんばかりのキツイ目つき。
これじゃあまるで、トモミと喧嘩をしている時と同じ態度だ。
本来のふわふわした子ウサギのような彼女ではない、別人。
――うわぁ……気まずい、帰りたい……。
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