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-溝田圭吾
『HEART』の世界が春休みに入ってからは、すっかり暇をしていた。
授業時間は半分に減ったのに、俺のリアルには相変わらず華がなく、生活はつまらない物になるばかり。
しかし、始業式まで一気にスキップしてしまうと、きっちり一ヶ月保たれた世界間の関係が崩れてしまうから、むやみに乱したくはなかった。
「愛本、何か面白いことねぇの?」
『では、電車に乗って遠くに行ってみては如何でしょう』
「散策はもう飽きた。近くも遠くも大して変わんねぇよ」
――あぁ暇だ、暇過ぎる。
春休みに入って数日、毎日『HEART』の世界には来るものの、俺は愛本にリアルの愚痴をこぼすばかりであった。
ゲーム世界でも外へ出ず、グダグダ部屋で過ごすこと多々。
『結局、溝田様は佐藤さんに会いたいのですよね』
胸の奥にあった本心をすぐに見透かされ、俺はベットの上に置いてある枕を抱きしめる。
佐藤さんに会いたい。
格好つけた俺にも、気取らない俺にも表情を変えない彼女の心を、惹きつけたい。
どうにか頑張ったら、報われそうな気がしていた。
「愛本、佐藤さんの家知んないの?」
『何故私が。知るはずないでしょう』
――知ってたらなぁ……。
『そんなに会われたいのならば、外へ出て探してみては?』
「俺に風邪引けって言ってんの?」
初日にも同じことを言われ、俺は偶然に出くわさないかと家の外をブラついていた。
しかしただ寒さに震えるだけの結果で、頑張りが報われることはなく、日は西に沈んでしまった。
あの時俺は愛本を苛み、以後部屋から一歩も外に出ていない。
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