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やがて現実に戻ると、まだ日付も変わっていない俺にとってはゴールデンタイム前の時刻。
メールを確認してみると、お店の広告や出会い系の迷惑メールの中に、管理人からの返信を見つけた。
「どれどれ……?」
情報を共有することが可能な彼女とのやり取りは、中々楽しい。
どうでもいい内容の時はそのままスルーする時もあるのだが、今日は思わぬ誘い文句に目が点になってしまった。
『よかったら直接会ってお話しませんか?』
これまで適度な距離を保ち、距離を縮めるのにはもっと時間がかかると思っていた。
なのに、自ら歩み寄ってくれるとは驚きだ。
予想外のお誘いに、俺はすぐさまカタカタキーボードを叩く。
「えっと……俺も管理人さんに聞きたいことがたくさんあります」
毎度律儀に返事をしてくれていた管理人には、不思議と不信感は覚えなかった。
『HEART』の世界に恋人がいるくらいなんだから、リア充ではないだろう。
送信ボタンを押すと、ベットに突っ伏して大きく息を吐いた。
ふかふかの毛布の感触も、吐息の生温かさも変わらない。
それでも俺にとっての現実は、この世界でしかない。
佐藤さんは『HEART』にしか存在しない、生きているのに、この世の人間ではなかった。
「あー!何か頭痛い」
ちょっと動かしただけでも、地球規模で問題になる程の被害を受けるあっちの世界。
今はまだ大丈夫。
だけど、これからは……?
いつ壊れるかも分からない、修理をしても記憶がなくなってしまう彼らと、俺はいつまで一緒に時間を過ごすことが出来るのだろう。
終わりがないというのが不可能だということは、心のどこかで察している。
頭の隅では、理解していた。
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