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翌日、いつもより早く目が覚めた俺は、珍しく鏡の前で髪の毛を整えて家を出た。
生まれつきの天然パーマはブラッシングをしてもサラサラにはならないが、変にワックスで固めるよりマシなのは経験積み。
都会の朝は田舎と違って騒々しい。
一歩大通りへ出ると、朝から渋滞になっている車道に飲み込まれそうだ。
そんな中、信号待ちをしている時に何やら視線を感じて隣を見ると、そこにはクラスメイトが立っていた。
――神保原(じんぼばら)……。
珍しくてカッコ良い苗字とは裏腹に、胸までの真っ黒な髪の毛を一つに束ね、分厚い眼鏡をかけている地味系女子。
頭は良いがクラスではいつも一人孤立しており、存在感も薄い。
こう言っちゃ悪いが、まだ俺の方が友達だっているし、マシかもしれない。
同じクラスになって一度も話したことがない神保原。
俺は彼女から目を逸らすと、鞄の中から音楽プレイヤーを取り出してスイッチを入れた。
しかし、その間も逸らされぬ視線に違和感を感じ、もう一度だけ一瞥すると
「溝田君、昨日は返信ありがとう」
「……え。……俺?」
「えぇ、昨日、直接会ってお話しませんかって、私送ったじゃない」
当たり前のように瞬きもせずに告げた神保原は、信号が青になると先に車輪を漕ぎ始める。
「……ちょっ、待って」
神保原の黒い髪が風に揺れ、自分も彼女を急いで追いかける。
俺は管理人に警戒心を解いてもらうために、初めから本名を名乗っていた。
神保原はずっと俺の存在を知っていて、教室では黙っていた……?
「神保原!」
声に出したことのない彼女の名前を、俺は人目を気にせずに大きな声で呼び止めていた。
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