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「待てって。……マジで管理人?」
早々とペダルを漕ぐ神保原に追いついて尋ねると、彼女は自転車に乗ったまま器用に俺のことを見据えた。
「じゃなきゃ、わざわざ話しかけないわよ」
「最初から俺だって気付いてたわけ」
「初めは同姓同名の違う人だと思ってた。でも、住んでいる街が同じだと分かった時、溝田君なんだと確信が持てた」
嬉しいような、そうでもないような、正直微妙な心境で反応に困る。
まさか管理人がクラスメイトだとは、思いも及ばなかった。
「……じゃあ、聞きたかったんだけど、どうして直接話そうって」
「あなた、『HEART』の世界に好きな女の子がいるんでしょ。だからよ」
クラスじゃ無口なイメージの強い地味女子だったのに、神保原は流暢に話をする。
その静かな瞳が嘘をついているようには見えない。
「お前、彼氏いるんだよな」
「えぇ、水内コウタロウ君と付き合ってるわ」
――コウタロウと……?
俺の世界では、コウタロウには大人しくて、あいつとは正反対の性格の彼女がいる。
消極的で守ってあげたくなるような彼女のこと、コウタロウは何だかんだ言いながら物凄く愛していた。
ユメがユメがって何度ノロケられたことか。
そのおかげで、いつしか俺も彼女のことを苗字ではなく『ユメちゃん』と呼んでいた。
「俺の世界では、コウタロウには彼女がいるよ」
「知ってる。私がゲームを始めた時にも、コウタロウ君は既にユメちゃんと付き合ってた」
じゃあどうやって、と聞く前に、神保原はすっぱり言い切った。
「脅したのよ」
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