あの子の世界に、秘密を見つけた

23/33
前へ
/253ページ
次へ
「ちょっと待って。脅したってことの前に、俺の世界以外でも二人は付き合ってる設定?」 「……溝田君って、異性と話すこと出来るのね」 頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる俺を見て、神保原は全く違うことを言ってふっと笑った。 そっちこそそうだろ、と言い返したくなる。 「あの二人が付き合っている、というのは初期設定の一つだから、ソフトによって違いが出ることはないわ」 「初めて知った」 「プレイヤーが『HEART』の世界に飛び込むことによって、彼らの状況は変わってくるのだけれど、一応彼らの未来は最初から決まっているの」 駐輪場に到着すると、神保原は置き勉せずに持ち帰った重そうな鞄を抱え、スタスタ下駄箱へ向かう。 彼女と学校で話すのは抵抗がある。 俺みたいなオタクと、孤立している神保原が一緒にいる所を目撃されれば、たちの悪いリア充に馬鹿にされ、面白おかしく噂話を流されることだろう。 それでも最後に一つだけ、と彼女の前に回り込むと、俺は早口に 「『HEART』自体の未来は、元々全部同じってこと?プレイヤーによって状況は変わるけど、関係ない周りの奴の未来は他の世界と同じ……」 「えぇ、そういうこと」 俺達をチラチラ見ながら通り過ぎる生徒の気配が苦痛になる頃、神保原はタイミング良く身を翻した。 「放課後、一緒に帰りましょう。校門の外で待ってるから」 ――あいつ、一体何者なんだ。 発売されていないはずの攻略本でも持っているかの如く、詳しい情報。 この短時間だけでも、俺は『HEART』について随分知識を得た。 コミュニケーションをとって自分だけの環境を築けても、結局は現実の人間によって操られている。 心を持っているのに未来は既に決まっている、というのは苦しいことなのか、幸せなことなのか、授業中いくら考えても俺には分からなかった。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加