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「ちょっと待って。脅したってことの前に、俺の世界以外でも二人は付き合ってる設定?」
「……溝田君って、異性と話すこと出来るのね」
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる俺を見て、神保原は全く違うことを言ってふっと笑った。
そっちこそそうだろ、と言い返したくなる。
「あの二人が付き合っている、というのは初期設定の一つだから、ソフトによって違いが出ることはないわ」
「初めて知った」
「プレイヤーが『HEART』の世界に飛び込むことによって、彼らの状況は変わってくるのだけれど、一応彼らの未来は最初から決まっているの」
駐輪場に到着すると、神保原は置き勉せずに持ち帰った重そうな鞄を抱え、スタスタ下駄箱へ向かう。
彼女と学校で話すのは抵抗がある。
俺みたいなオタクと、孤立している神保原が一緒にいる所を目撃されれば、たちの悪いリア充に馬鹿にされ、面白おかしく噂話を流されることだろう。
それでも最後に一つだけ、と彼女の前に回り込むと、俺は早口に
「『HEART』自体の未来は、元々全部同じってこと?プレイヤーによって状況は変わるけど、関係ない周りの奴の未来は他の世界と同じ……」
「えぇ、そういうこと」
俺達をチラチラ見ながら通り過ぎる生徒の気配が苦痛になる頃、神保原はタイミング良く身を翻した。
「放課後、一緒に帰りましょう。校門の外で待ってるから」
――あいつ、一体何者なんだ。
発売されていないはずの攻略本でも持っているかの如く、詳しい情報。
この短時間だけでも、俺は『HEART』について随分知識を得た。
コミュニケーションをとって自分だけの環境を築けても、結局は現実の人間によって操られている。
心を持っているのに未来は既に決まっている、というのは苦しいことなのか、幸せなことなのか、授業中いくら考えても俺には分からなかった。
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