あの子の世界に、秘密を見つけた

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その日一日、神保原と目が合うことはなかったが、俺は後ろの席から彼女を凝視していた。 「おい圭吾、お前今日ずっとそわそわしてっけど、もしかしてトイレ我慢してる?」 HR前、鼻の脂をティッシュで拭きながら俺の席に来たキモトは、不思議そうに首を傾げた。 「は、違うし」 「……なんだ、てっきり一人で我慢記録にでも挑戦してんのかと思ったぜ」 「んなくだらないこと、誰がするか」 ――そういう下品なことは、もう少し小声で言えよ。 近くの女子にでも聞かれたら……いや、聞かれても聞かれてなくても、俺らの価値は何も変わらないのだが。 「ホントに変わったことない?」 「ないない」 早くも俺の異変に気付いたらしいキモトには感心しつつ、素知らぬ顔をする。 やがてHRが終わり、神保原が教室を出たのを確認すると、俺はちょこちょこと後を追った。 ――何か変な感じだ。 現実世界で女子と待ち合わせをするのは初めての体験。 眼中にない神保原でも、少しばかりドキドキする。 「溝田君、こっちよ」 校門を出ると、すぐに名前を呼ばれた。 左を向くと、神保原は十メートル程離れた電柱に、隠れるように佇んでいた。 目が合うと手招きをされ、彼女は藍色の自転車に跨る。 「今から私の家へ行こうと思ってるの、ついて来て」 「家?……話をするんなら、どっかその辺の公園でも」 「見せたいものがあるの。きっと来ないと後悔するわよ、それでもいい?」 冷ややかで、挑発的にも見える視線。 別に断る理由はない。 俺が返事をせずにサドルに腰を下ろすと、神保原は喧噪な市街へと走り出した。 空は寂しくて切なくなるような、もぎたての林檎のように赤かった。
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