世界のことは、少しだけ知ってる

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 やがて教室に入ると、島津君は私とトモミから離れて自分の席につく。 「島津、おはよー」 「おう、おはよ」  近くにいたクラスメイトに話しかけられ、ニコニコ返事をする彼。決して取り繕っているわけではなく、本当に自然に向けられる笑顔を、私は遠くの席から眺めるだけ。  ──席替え、いつも遠くだな。  島津君はクラスの人気者だった。スポーツ万能、頭も良い、爽やかな好青年。  だからと言って鼻にかけることなく、本人は自分の魅力に気が付いている様子はない。  それに何より、心優しい男の子だから、彼はどんな人からも好かれた。  否の付け所のない人って、島津君の為にある言葉のように感じる。島津君は私の目標であり、憧れの存在なんだと思う。 「おーい、可純。どこ見てんの?」  トモミに頬を指で突っつかれ、私はハッと我に返った。 「……ごめん、寝不足でぼぉっとしてた」 「寝不足ー?健康一番、早く寝なきゃ駄目よ」  アハハ……と笑いながら、適当なことを言ってしまった自分の唇をつねる。島津君を見てたとは言えなかった。  トモミには島津君に対する想いを話していない。きっと知ったら、くっ付けてあげると協力してくれることだろう。  でも、無理だ。島津君は手の届かない所にいる人なんだ。
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