476人が本棚に入れています
本棚に追加
やがて教室に入ると、島津君は私とトモミから離れて自分の席につく。
「島津、おはよー」
「おう、おはよ」
近くにいたクラスメイトに話しかけられ、ニコニコ返事をする彼。決して取り繕っているわけではなく、本当に自然に向けられる笑顔を、私は遠くの席から眺めるだけ。
──席替え、いつも遠くだな。
島津君はクラスの人気者だった。スポーツ万能、頭も良い、爽やかな好青年。
だからと言って鼻にかけることなく、本人は自分の魅力に気が付いている様子はない。
それに何より、心優しい男の子だから、彼はどんな人からも好かれた。
否の付け所のない人って、島津君の為にある言葉のように感じる。島津君は私の目標であり、憧れの存在なんだと思う。
「おーい、可純。どこ見てんの?」
トモミに頬を指で突っつかれ、私はハッと我に返った。
「……ごめん、寝不足でぼぉっとしてた」
「寝不足ー?健康一番、早く寝なきゃ駄目よ」
アハハ……と笑いながら、適当なことを言ってしまった自分の唇をつねる。島津君を見てたとは言えなかった。
トモミには島津君に対する想いを話していない。きっと知ったら、くっ付けてあげると協力してくれることだろう。
でも、無理だ。島津君は手の届かない所にいる人なんだ。
最初のコメントを投稿しよう!