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「酷い話だな」
「……溝田君も状況によっては、このボタンを使うかもしれないわよ」
『俺は絶対使ったりしねぇ!』
とは、言いたいのに、言えなかった。
俺も神保原同様、好きな人と結ばれたい。
神保原のことを酷いと言いながら、彼女のしたことを真向から否定することは出来なかった。
でも、こんな小さなボタン一つで世界を壊せるなど、住民にしてみればふざけた話である。
脅されたコウタロウはどう思ったんだろう。
――苦しかった……よな。
好きでもない奴に迫られて、脅迫され、自分を犠牲にして。
「……大体、何でそんな変なボタンあんだよ」
「作った理由はお父さんが教えてくれないから、私は知らない」
世界を壊すための装置を元々作るなど、何か意味があるに違いない。
「溝田君が好きな子は誰?クラスメイト?」
「佐藤可純」
嘘をつかずに告げると、神保原は形容の出来ない妙な表情で口を開こうとする。
瞬時に嫌な予感がした。
「可純ちゃんは……駄目よ」
「駄目って……何」
「可純ちゃんには、島津君と付き合う未来が待ってる」
私はとてもお似合いだと思ってたんだけれど。
「え……」
「後日談じゃ、二年生に入る前から、お互い好きあってたらしいわよ」
唖然とする俺に、彼女は遠慮なしにもう一度、残酷な事実を突きつけてきた。
「私のゲーム世界は、現在高校二年生の九月。可純ちゃんと島津君は、梅雨明けから付き合い始めたわ」
知りたくなかった。
知らずに好きでいたかった。
――突然そんなことを言われても、俺にどうしろっていうんだ。
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