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知りたかった佐藤さんの家は神保原に教えてもらい、俺は家に帰るとすぐに『HEART』の世界に飛び込んだ。
電源を入れる前に本体の蓋を上げると、確かにこの機械にもあの真っ赤なボタンは存在していた。
終焉のボタン。
押したらきっと、未来が変わる。
でも、その時俺は理性を失い、歯止めが利かなくなるだろう。
どうするかを決めるのは、プレイヤーだけの特権。
神保原はコウタロウを手に入れるために、強引な手を使った。
最低だと、言えなくはない。
でも俺だって、人気者の島津が恋をしている佐藤さんのこと、簡単に手放したくはなかった。
自分だけの彼女にしたかったのだ。
今ならまだ間に合う、だから、そう、だから……。
『溝田様、おはようございます』
ベットの上で目を開けると、耳元でいつもと変わらない愛本の声がする。
『今日も一日、家の中でゴロゴロ過ごされるのですか』
「佐藤さんの家に行く」
『でもついこの間、場所が分からないと……』
着替えを済ませると、俺は迷いなく玄関を出て右に曲がった。
神保原が言うには、ここからそう遠くはない彼女の自宅。
『溝田様、佐藤さんの自宅を知っておられるのですか?』
「『HEART』持ってる友達に聞いた。……愛本、俺がすることに口出しすんなよ」
何をですか、という愛本の不思議そうな声を無視して、俺はズンズン歩調を速める。
あのボタンを押す前に、一つ彼女と賭けをしてみたかった。
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