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頭に叩き込んできた場所を何とか思い出し、狭い道を進んでいると、古ぼけた小さなスーパーが見えてきた。
店先に止まっているママチャリはどれも色がくすみ、長い間使われている物だと分かる。
何気なく入り口に視線を向けると、割烹着姿の老婦人が大きな白菜を両手に見比べていた。
そんな、言ってしまえば、年齢層が非常に高いと思われる風景の中に、俺は一際輝くあいつの姿を発見してしまった。
――何、バイト……?
暑苦しい真っ赤なポロシャツに、青いエプロン姿の島津。
店指定の制服のようだが、とにかくダサい。
それなのに、お客に笑顔で対応する島津は、恐ろしく良い意味で目立っていた。
遠目からでも分かる尋常でないオーラに、気付けば俺は導かれるように中へ足を踏み入れていた。
「お、溝田じゃん」
レジ横に置いてあるガムを一つ取って差し出すと、島津は嬉しそうに口を開く。
俺の考えていることなんて何も知らない、無垢な笑顔。
「島津、ここでバイトしてんの?」
「うん、長期の休みはお世話になってる」
「……へぇ。そういえば佐藤さんもこの辺に住んでたよな。佐藤さん、ここに来たりする?」
わざとらしく彼女の名前を出しても、全く動揺を感じさせない態度。
――こいつも佐藤さんのこと、好きなんだよな……?
島津は売り場のお客の状況を見つつ、俺に向き直ると首を振った。
「春休みになってからは買いに来てないよ」
あっさりし過ぎていて、面白くない反応。
でも真っ直ぐな男、いつかきっと、島津は自分の気持ちを俺にも告げることだろう。
島津の宣戦布告が先か、俺と佐藤さんが付き合うのが先か。
「じゃ、俺この後予定あるから行くわ」
佐藤さんに会いに行く、会ってチャンスを与える。
俺はいきなり終焉のボタンを押す程、鬼畜な人間ではない。
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