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スーパーから歩いて五分、白いブロックのような真四角の一軒家が見えてきた。
開けられた門を抜け、玄関に立つと、俺は迷うことなくチャイムを押していた。
『一体佐藤さんに何を言われるのですか』
「詳しいことは後で説明するから、今は待って」
どうしてこんなに焦っているんだろう。
異常な不安が、俺を蝕む。
まだ佐藤さんと島津は付き合っていないのに、二人の幸せな未来を想像するのが怖かった。
彼女のこと、ここで簡単に諦めて、ぞんざいにする気はない。
俺はこのゲームの持ち主、幸せになる権利がある。
俺の理想の世界を島津に奪われるなど、真っ平ごめんだ。
なんて思いながら扉が開くのを待っていると、出てきたのは佐藤さんではなく、弟……?
「どちら様?」
佐藤さんと同じ目をした少年が、訝しげな顔でこちらを見上げてくる。
見た感じじゃ、中学生くらいだろうか。
「……あ、可純さんいらっしゃいますか」
「姉ちゃんなら二階にいるけど……呼ぶ?」
――年下っぽいのに、偉そうにタメ口かよ。
「すいません、お願いします」
やんちゃをしてそうな小生意気な少年は、俺のことを舐め回すようにジロジロ見ると、中に向かって叫び声を上げた。
「姉ちゃん、彼氏が来てっぞー!」
――え、ちょ……。
「早く来いよ、待ってんぞぉ!」
言うだけ言って冷やかすようにクスクス笑うと、少年はさっさと背を向ける。
何だか気にくわない野郎だ。
顔は彼女に似ているのに、性格は正反対らしい。
その後、バタバタ慌ただしく姿を現した佐藤さんは、俺を見るとアホみたいに口を開いて固まった。
「溝田……君?どうして……?」
「佐藤さんに話したいことがあるんだ。今から時間ある?」
俺の言葉に、案外彼女はすんなり頷きかけた。
しかし、途中で自分の姿を確認すると、何とも可愛らしい悲鳴を上げられた。
「ごめん!ちょっと……待ってて。適当な格好で出てきちゃった」
ダボついたクリーム色のパーカーに、ショートパンツ。
もう怪我の後はない白くて触り心地の良さそうな足は、剥き出しになっていて、俺の胸はドクンと跳ねる。
「そのままでいいよ」
中に戻ろうとした佐藤さんの腕を引っ張ると、彼女の手をすり抜けた扉はバタンと音をたてて閉じていた。
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