あの子の世界に、秘密を見つけた

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そのまま門を出て歩き始めると、佐藤さんは憂慮の面持ちで後ろをついてくる。 「さっき出てきたの、弟?」 「うん、彼氏とか……失礼なこと言ってたよね。ごめんなさい」 「俺はいいけど」 ――寧ろ大歓迎なんですけどね。 「あれ、溝田君って私の家知っていたっけ。そういえばどこ行くの……?話って……?」 振り返ると、彼女は瞳をクルクルさせて戸惑いの表情を浮かべていた。 現実的な恋愛には慣れていない。 気持ち悪がられるのが目に見えていて、誰かを好きになることさえ最初から諦めていた。 だから、こんな風にキザっぽく彼女を連れ出したはいいが、本音を言ってみれば、俺も対応に困っている。 「とりあえずそこの公園に入ろ」 話をする場だけが欲しくて敷地に入ると、遊具の片隅に設置してあるベンチへ向かった。 人っ子一人いない園内は、漂う空気が固まっている。 ムードの欠片もない。 「何て切り出していいか分かんないから、単刀直入に言う。俺、佐藤さんに彼女になってほしい」 どう考えても早い段階での告白。 温め途中の気持ちをぶつけても、どこまで相手に伝わるのかは分からない。 それでも、待たずにはいられなかった。 「私に彼女のフリをしてほしいってこと?」 「とんちんかんなこと言ってんね。俺は佐藤さんのことが好きなんだよ」 「……あの」 言動を呑み込めないらしい彼女を前に、俺は早口で言ってのけた。 「佐藤さんが島津のこと好きなのは知ってる」 「えっ!?」 「間違ってないよね」 「……」 「前は好きな人いないって言ってたのに、今は否定しないんだね。そっか」 ――あぁ、ここまで言っても違うって言い返さないんだ。 神保原から教えてもらうまで気付かなかったが、紛れもなく佐藤さんは島津のことが好きなんだ。 押し黙る様子が、事実を物語っている。 知らなかった。 近くにいたのに、気付けなかった。 「ねぇ、一度付き合ってみて、俺のこと好きになる努力をしてみてくれない?」 ――じゃなきゃ、俺も神保原と同じことをしてしまうよ。 とんでもないことを言っているのは百も承知の上での、大きな賭けだった。
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