あの子の世界に、秘密を見つけた

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「付き合っていくうちに、ちょっとずつ好きになってくれればいいんだ」 時間がかかってもいい、気持ちは後でくれればよかった。 「俺のこと、嫌いじゃなかったら付き合って」 ここまで言った、こうまで言った。 トモミさんの尻に敷かれ、人が良く、頼まれ事をしたら断れなさそうな佐藤さん。 ――いけるかも。 好きでなくとも、嫌いではない俺の告白に、彼女はOKをくれるかもしれな…… 「ごめんなさい」 ――ごめんなさい? 「溝田君の気持ちは嬉しいけど、中途半端な気持ちで付き合ったり出来ないよ」 予想外の明答。 佐藤さんの方を見ると、彼女はしっかり俺を見ていた。 「溝田君の言う通り、私……好きな人がいる」 浅はかで、時と場所を考えなかった愛の告白は、無惨にも崩れ落ちた。 「だから、そんな気持ちのままじゃ付き合えない」 「島津じゃなきゃ駄目?……俺でもいいじゃん」 「気持ちは嬉しいよ。でも、ごめんなさい」 丁寧な断り方に、真剣味を感じられた。 仲良くしていて、且つイケメンの俺でさえも、島津には敵わないのだろうか。 「そりゃ、いきなりでビックリしたよね。考える時間をとってもいいよ」 「ううん、いい」 考慮する時間さえも、彼女にとっては必要ないのだろうか。 真摯な態度が余計に心に痛い。 「そっか、じゃあ仕方ないか」 「ごめん」 「佐藤さんには悪いけど、酷いことすることになりそう」 不可解な面持ちの彼女に、俺は目を伏せて呟いた。 「……佐藤さんは島津と付き合うことは出来ないよ」 俺がいる限り、それは不可能なことである。
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