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-佐藤可純
私のことなんて目の端にもなさそうだった溝田君からの、何の前触れもない告白。
結論だけを述べると、断ってしまった。
好きでない人と恋愛関係になるなんて、考えられない。
とりあえず付き合うという選択肢、まだ子供の私には存在しなかった。
――それにしても島津君への気持ち、どうして分かったんだろ……顔に出てた?
誰にもバレていない自信があったのに、見抜かれてしまうなんて。
溝田圭吾君。
この冬うちの学校にやって来た、目鼻立ちの整ったモデルみたいな男の子。
一見軽そうに見えるが、一応転入してきてから今まで、浮いた話を耳にしたことはなかった。
……少なくとも私は。
――どうして私なんだろう、何かのドッキリ?
ちゃんと思い返すと、未だに疑いたくなる。
チラリと隣を伺うと、口角を上げた溝田君の横顔が見えた。
告白を受けて三日、再び彼は連絡もなしに自宅を訪れてきた。
『裏山へ行こう、聞いてほしいことがある』
裏山へ行ったのは、小学生の時の遠足以来。
何なんだろう、ノコノコついて来てしまったが、彼の意図は分からない。
「佐藤さん、こっちで合ってる?」
「合ってるよ」
学校の裏門から山に延びる、コンクリートの一本道を登るだけだ。
はしゃいでいたのは幼き頃だけ、大きくなればきついだけの道を登ろうとする者は珍しい。
「ビックリするかもしれないけど、俺ね、この世界を操ることが出来るんだ」
――はい?
突拍子もない発言に彼を見上げると、声を上げて笑われた。
「証拠、見せてあげる」
「……何それ」
「途中休憩スポットがあんだよねー、まずそこまで行こっか」
楽しそうな溝田君は、私の手を掴むと小走りで坂を登り始めた。
彼の笑顔とは裏腹に、こちらはじわじわ不安な気持ちを感じる。
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