世界を犠牲に、手に入れたモノ

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「どう、こんな感じ」 彼は平然と、世間話をするみたいに笑いかけてくる。 「本当に……溝田君が?」 「信じられないなら、もう一度やってみようか?」 「やめて」 軽々しい口調は嘘をついているようではなく、寧ろ現実味があった。 「この世界が誰かに作られているって概念は、理解してんだよね」 「それは、生まれつきみんなが」 「俺はこの世界を作っている人間の知り合いなんだ」 神でも宇宙人でも変な生物でもない生きている人が、世界の支配者? 「世界を作ったのは人間だよ。だから、人間によって滅ぼすことが出来るってこと」 溝田君はきっと今頃パニックになっているだろう、眼下の町を見下ろして呟いた。 「このこと、誰か知っているの」 「誰も知んないよ。本物の俺は別世界に住んでて、この世界には遊びに来てるだけだから」 「ちょっと待って。言ってること、全然分からないよ」 世界を操っていると言い出すかと思えば、本来は違う世界の住人だと言い始める彼。 「この世界は『HEART』っていう世界なんだ」 「……はーと?」 「俺はこの『HEART』を生かすことも、滅ぼすことも出来る」 溝田君は再びこちらに向き直ると、両手を伸ばして私の肩を掴んだ。 「佐藤さん、俺の彼女になって」 「……」 「佐藤さんが彼女になってくれたら、さっきみたいな酷いこと、しないから」 ――これって、脅されてる……? 口調は穏やかだが、言ってることは滅茶苦茶。 無理だと言いたかった。 彼と懇意な関係になるのは、想像も出来なかった。 「いいよね、佐藤さん」 優しくするから。 そう言った溝田君は怖い顔をしておらず、そっと私を覗き込むと首筋に唇を押し付けた。
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