世界を犠牲に、手に入れたモノ

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――でも私って、溝田君の……。 会わない間に御座なりになるはずはない、あの日の出来事と約束。 島津君を目の前に、息が詰まるような思いで笑うと、彼は無邪気に笑い返した。 「行きたい所、考えといてよ」 何も言い出せない私を見て、彼は承諾していると判断したのだろうか。 「俺も考えとくから」 いつも浮かぶはずの桜子ちゃんの怖い顔ではなく、私の脳裏には溝田君の瞳が過った。 しかしこの時、はっきり行けないと断ることは出来なかった。 単純に言いたくなかった、というのが正解か。 彼らと別れ、新しい教室に行ってみると、溝田君は既に後方の席についていた。 昨年違うクラスだった生徒と、楽しげにおしゃべりをしている。 でも、私とトモミが教室に入るのを確認すると、待っていたみたいに話を中断させて手を振ってきた。 「佐藤さん、同じクラスだね。嬉しい」 「ん?一年の時、クラス一緒だった人?」 「まぁね。で、今は俺の彼女」 「……え、溝田の彼女?」 「そ、俺の彼女」 その瞬間、トモミと彼の席にいた男子生徒が、私達を見比べて仰天した。 「はっ!?可純、どういうこと!?」 詰め寄るトモミに苦笑すると、代わりに溝田君が口を挟む。 「トモミさん、まだ聞いてなかったんだ」 「何も聞いてないし!ねぇ可純、ホントなの!?」 「……うん、まぁ」 分かってた。 でも、やっぱり夢ではなかった。 溝田君は興味あり気に見ている生徒にも、私を彼女だと公言し、憎めない笑顔で照れている。 中には昨年のクラスメイトもいて、物凄く驚いていた。 世界の為に結ばれたと言って、一体どれくらいの人が信じてくれるのだろう。 ノロけ話だと叩かれるのがオチだと思う。 ――私は、モデルみたいな溝田君の彼女……。 その後、トモミに突っ込んだ質問をぶつけられても、上手く返答することは出来なかった。 だって私は、彼を愛しく思っているわけではないのだから。
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