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HRが終わると、周りの目など気にせずに、溝田君は私を連れて教室を後にした。
繋がれた手は、私達の親密な関係を示している。
今まで誰の温もりも知らなかった私の体の一部が、彼の熱を感じるのは奇妙な感じで、何度繰り返しても違和感を覚えずにはいられない。
求めていないものを押し付けられている、心地悪さ。
本来心が欲していた、あの子の存在の大きさ。
「明日からまた授業始まるのかぁ」
「でも溝田君、嬉しそうだよね」
「うん、俺、元々の現実世界よりも『HEART』の方がずっと好きだから」
彼の言うもう一つの世界とは、どんな所なんだろう。
この世界を作る技術のある程、凄い場所……?
「溝田君の住んでいる所って、どんな所なの。宇宙みたいな感じ?」
「ハハ、こことそう変わんないよ。てか、俺が世界の主導権を握っていること以外、同じだと思う」
溝田君の伸びた前髪が、日の光で輝き、春風にゆらゆら揺れる。
それはそれは美しい光景なのに、私は彼から視線を外すと前を向いた。
『待って』
そう大きな声で呼び止められたのは、校門を出た直後だった。
私の心を一瞬にして惹き付ける、ノイズの少ない、よく通る声。
ハッとして振り返ると、ジャージ姿の島津くんが立っている。
走ってきたのか、ほんの少し息が乱れていた。
「何で手、繋いでんの」
開口一番の言葉に、私は目を見開いて硬直した。
「何で」
「付き合ってるから」
すかさず返答する溝田君は、躊躇なく言い切る。
私の気持ちなんて、彼には全く関係のないことなのだろうか。
――もう……バレちゃった。
隠そうとしたって知られるのは分かっていたのに、それでも島津君にはバレたくなかった。
「付き合ってるって、溝田と佐藤が?」
「そうだよ」
「……ホント?」
「何で嘘つかなきゃなんねーの」
私と溝田君を見比べる島津君は、驚きを露にしているのではなく、呆気にとられているように見えた。
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