世界を犠牲に、手に入れたモノ

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* ちゃんと意識はあるのに、気付けば呆けることが増えていた。 望んでいない彼氏が出来ても、欲求が満たされることはなく、つまらない日常が流れる。 いつまで続くのだろう。 いつになったら解放してもらえるのだろう。 やがてプラトニックな関係が終わりを告げ、心も体も全てを求められた時には、どうすればいいんだろう。 世界の未来がかかった大きな問題なのに、私は自分一人の身を守るのに必死で、変なことを考え始めると胸が気持ち悪くなる。 『もう無理』 なんて、シラケた目をして溝田君のことを拒絶した時には、私もこの世界も一瞬にして消えてなくなってしまうかもしれない。 でもあまりに現実離れした話で、頭はよくついていかなかった。 「ね、佐藤さん、ちゃんと聞いてる?」 「……うん、聞いてるよ。今週の土曜日だよね」 子供のように無邪気な笑顔で、デートの予定を立てる溝田君。 付き合い始めて以降の帰り道では、毎日家まで送り届けてくれるようになった。 ――そんなことしなくても、自分で帰れるのにな。 「王道といえば、映画見たり遊園地行ったりかなぁ。あ、でも俺、今金欠だから、遊園地は無理かも」 「……うん」 「買い物したり、その辺ブラブラでもいいよ。別に、場所に拘ってるわけじゃないし」 「どこでもいいよ」 溝田君はよく話し、よく笑う。 島津君以外の人は考えられないが、もし彼と出会っていなかったならば、私にとって溝田君は魅力的に見えていたのかもしれない。 そう、彼のこと、決して嫌いではないんだ。
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