世界を犠牲に、手に入れたモノ

10/31
前へ
/253ページ
次へ
-島津佑馬 春の終わりも、もうすぐ傍まで近付いていた。 生暖かい風が俺の髪の毛を揺らし、頭上の木の葉をさざめかせる。 名も知らぬ小鳥は春の最後を歌い、花壇の花はこれでもかと咲き誇る。 五月も半ばになると暑いくらいの日もあり、体育終わりの今も、上は薄いブラウス一枚になっていた。 「あっちぃなぁ」 隣を歩くコウタロウは、首にかけていたスポーツタオルで額の汗を拭う。 「中間テストも終わったし、これで体育祭に向けて一直線だな」 「んー、今から楽しみ!俺、今年も応援団員だし、ユメに格好良い所見せれるよう頑張んなきゃだし」 「あは、幸せそうで。頑張れよ」 「どうもどうも」 頬が緩みっぱなしになっているコウタロウの背中に手を当てると、蒟蒻のようにふにゃりと曲がった。 ――楽しそうな奴。 五月の終わりに控えている体育祭。 今週から午後の授業時間は、本番に向けての練習期間になっており、リーダー達は忙しそうに校内を行ったり来たりしていた。 祭り前のせわしい空気は嫌いじゃない。 「佑馬も大会控えてなかったら、今年もまた一緒に応援団やれてたのにな」 「こればっかりは仕方ない。でも、俺も一緒にやりたかったなぁ」 昨年団員を務めていたこともあり、引き続き今年もどうかと話は来ていたが、残念ながら近い日に水泳の大会を控えていた為、今回はそちらの練習を優先することになった。 昔からこういうイベントを楽しんできていたからこそ、未だに悔しい思いはある。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加