世界を犠牲に、手に入れたモノ

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そんなある日、ブロック毎の競技決めにて、障害物競争への参加が決定。 「島津って、出てって言ったら何でもOKしてくれるから、運営としては都合良いよ」 ――便利屋……? 「都合良いって言い方、嬉しくないし」 「いやいや、ただの出たがりより確実に点稼いでくれるから、助かるってことさ」 後日、競技の打ち合わせに行ってみると、メンバーの中には居心地悪そうに下を向く佐藤がいた。 知り合いがいないのか、運動場の隅に一人突っ立っている体貌は、うら寂しげである。 溝田の姿も見当たらない。 「ちょっと、佐藤」 「あっ、島津君」 「障害物、参加しても大丈夫なわけ?」 こちらを見て明らかにホッとした彼女に対して、俺は複雑な心境になる。 男女ペアで行われる障害物競走。 もしブロック内に恋人がいれば、カップルで参加するのが恒例の競技だった。 「ホントは綱引きに出たかったんだけれど……じゃんけんで負けちゃって」 「溝田いないじゃん」 「さっき200メートル走になったって言ってた」 転校して初めての体育祭、溝田はこの競技の意味を知らなかった……? そうこうしているうちに適当にペアを組むように指示され、辺りはざわつき始める。 「もう誰と組むか決めた?」 「俺はまだだけど。佐藤は?」 「私もまだ……どうしようかな」 彼女は困惑した表情でキョロキョロするのに、俺の方は見もしない。 目の前に顔見知りがいるではないか。 どうして見てくれないんだろう。 もちろんこのまま、一緒に組もう、と言おうと思った。 「島津先輩、発見」 しかしその時、一人の生徒が間に入って来て、俺は誘うタイミングを見失ってしまった。 彼女の登場で佐藤は一歩後ろに下がり、お決まりの空気になろうとする。 「先輩、誰と組むか決めました?」 やって来たのは水泳部の一年生。 新人マネージャーとして、桜子の下でテキパキ働く元気な女の子。
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