世界を犠牲に、手に入れたモノ

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「もしまだ決まってないなら、私、島津先輩と組みたいかなって」 後輩の申し出よりも、俺は佐藤がじわじわここから離れようとしているのが気がかりで。 いつもこうだ。 場の空気を読んだようにして、すぐにどこかへ行ってしまう。 まだ高校に入学して間もない頃、トモミとつるむ度に逃げられていたのが懐かしい。 「ごめん、もう決まったんだ」 「え、でもさっきあの先輩には、まだだって……」 「うん、あの先輩と組もうとしてた。だから、ごめん」 「えー」 最後まで不服そうだったが、やり取りをしている間に後輩の連れが輪に加わり、俺は他のグループに入りたそうにしている佐藤の前に回り込んだ。 「勝手に逃げないで」 「うわっ、島津君。こっちに来て大丈夫なの」 目を白黒させる佐藤は完全無視、偶然通りかかった運営を呼び止めると決定事項だけを述べた。 「ここ、組むんで記入お願いします」 「さっきの子は……」 「佐藤、まだ決まってないんだろ。だったら、俺がペアになる」 変更出来ぬよう名前を書いてもらうと、柔らかな喜びに心が軽くなった。 「固まってないで、佐藤もこっち来いよ」 近くの木陰に並んで腰を下ろし、ぼんやりする昼下がりは穏やか。 こうやって隣に並ぶのはいつぶりだろう。 「気を使ってくれたんだよね、ありがとう。でも、本当によかったの?」 「あの子は同じクラスの奴もいたみたいだし、大丈夫だよ。人の心配ばかりしてないで、もっと自分のこと考えたら」 「……考えてるよ、考えてる」 適当な返し、きっと俺の言葉なんて耳をすり抜けているんだ。 砂の上に指を滑らせる佐藤は、へんてこりんなウサギのキャラクターを描いている。 「絵、下手くそだな。意外」 「だからこうやって練習してるの」 顔に似合わず狂気的な彼女のウサギの横に、自分もクマを描いてみると、思いの外チャーミングに仕上がってしまいドン引きした。 「らしくないのは、俺の方もか」 「可愛いね。私もそういう絵が描けるようになりたい」
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