世界を犠牲に、手に入れたモノ

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ホシさんが帰った後の片付けの際、俺は母から彼のことを詳しく教えてもらった。 「俺がいる時は何も言ってなかったけど、結婚は?考えてんの?」 「……えぇ、実はプロポーズはしてもらっているの。だからね、今は待たせてもらってる形になってる」 「俺のせい?」 「……結婚は私一人の問題じゃないでしょう」 沈黙を挟みながら口にされる言葉は重く、濃い。 ジャブジャブ、ザーザー。 蛇口から零れ落ちる水の音が、変に耳に付く。 「遠方に住んでるって言ってたよね。それって俺、転校するってこと?」 「そう、ね、私は佑馬を置いてホシさんの所へは行けないから」 「いきなりだねぇ。あまりにも男っ気ないもんだから、心配してたくらいなのに」 何も心配なかったじゃん、と笑うと、母は神妙な顔つきのまま手を止めた。 「佑馬」 俺は決して度量が広いわけではないが、母の意見を取り入れるのは当たり前のことで。 彼女のことを愛し、人生を共にする人がいるのならば。 もしその場に、自分も一緒に必要とされるのならば。 「ビックリだぁ。転校っていつ?初めてだから何か緊張する」 「ごめんなさい」 「何謝ってんの、喜ばしいことでしょ。ホシさん、良い人そうだったじゃん」 止めることはない。 俺の事情は彼らに関係ないし、気を使ってもらう必要もない。 それに、ここを離れられない理由など、俺には存在しない。
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