世界を犠牲に、手に入れたモノ

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* 騒がしい場内に響く、ピストルの音。 トラック外に設置されたテントは、保護者や観客で賑わい、日常を忘れさせる。 からりと晴れる五月の最終日、見事に体育祭日和となった。 各ブロックの応援席からは声援が飛び交い、競技が始まると和太鼓が鳴らされる。 バチを持って声を張り上げるコウタロウの姿は、トラック内のここからでも目立つ。 ――気合い入ってんなぁ。 「緊張するね。凄くドキドキする」 振り向くと、黄色いハチマキを巻いた佐藤が、胸に手を当てて深呼吸。 「大丈夫だよ、絶対一位取れるから」 「島津君は自信満々だね」 「もちろん」 障害物競争もラスト一レース。 まもなく前走者が戻ってくると、すぐにピストルが鳴り自分達のレースがスタートした。 始まってしまえばあっという間になんだ。 分かっているから、ちゃんと楽しみたい。 彼女のペースに合わせ一緒に四分の一周、まずそこで一方がバスケットボールを投げ、一方が洗濯籠でキャッチ。 俺は佐藤と息を呼吸を合わす自信があった。 難なく一発で合格。 「ナイスキャッチ!」 「島津君がちゃんと投げてくれ……」 「はーい、次行くよ」 照れさせる暇も与えずに、俺はタイヤの上に乗っかった彼女を運んでいく。 慌ただしいBGMも、生徒や観客の声援も強く感じない。 ――溝田、こっち見てんのかな。 良い気、しないよな。 ペアが俺だと決まった後、佐藤に不満言ってる所、実際見たことあるし。
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