世界を犠牲に、手に入れたモノ

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「ほら佐藤、乗って」 半周地点に到達し、おんぶをしようと構える俺に、彼女は辺りをキョロキョロしながら躊躇する。 競技が始まっても緊張が溶けることはなく、表情は硬いまま。 楽しそうなんて、言えたものではない。 俺のこと、そんなに嫌? こんな競技早く終わってしまえって、思ってる? ――かもね。 「佐藤、早くして。追いつかれるよ」 大事な人に好かれない、という経験は、正直今までしたことがなかった。 俺はいつも人に恵まれていたんだと思う。 人に好かれ、人を好きになり、行動を共にする。 それが当たり前だと思っていた。 でも、違う。 背中におぶった佐藤は柔らかくて温かく、耳元には微かな吐息が届く。 首元に回された手には緩い力がこめられていた。 「……島津君、重くない?」 「気にする程じゃないよ」 「え、でもそれって、まぁまぁ重いってことじゃ」 「まぁそりゃ、全く重くないわけじゃないけどね」 ――小さな子供じゃないんだし。 しかし、俺の反応に問題があったのだろう。 数秒間の沈黙後、背中にしょっていたはずの重みがふわっと軽くなった。 首元にあるはずの佐藤の手がなくなっている。 「さと……」 そして次の瞬間――意識が追いつく間も、振り返る間もなく 「う、ぎゃっ!」 ジェットコースターに振り回されるような声を上げ、俺は後方に引っ張られる重みに逆らうことは出来ずにドシンと倒れてしまっていた。
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