世界を犠牲に、手に入れたモノ

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見上げる青空には薄ら雲。 頭には枕のようなふかふかの感触。 ハッとして起き上がると、佐藤は砂の上に尻餅をついて倒れている。 どうやら俺の後頭部は彼女のお腹に守られていたようだが、あっちは硬い地面に激突していた。 「お前、何考えてんだよ!」 いてて、とお尻を擦る佐藤は、俺の声には反応せずに渋っ面のまま。 「い、痛い……」 「当たり前だろ!何で手、離すんだよ!」 痛そうな彼女を目の前に、思わず大きな声を出してしまった。 固まった俺達の横を、他の競技者達は気にしながら通り過ぎてゆく。 あっという間にビリ。 あぁもう、最悪だ……クソッ。 「ったく……危ないだろ」 溜め息をつきながら、俺は佐藤の背中にこびり付いた茶色い砂を叩き落とす。 もうこれは一位を目指すどうこうじゃなく、ゴールすることに意義がある感じ。 「だって島津君が」 「んー?俺が何だって」 「私のこと……重いって」 ――そんなちんけなことかよ! 聞き取りずらい声で喋る佐藤は本当に恥ずかしそうで、目を合わせようとしない。 「私……今日の為にダイエット頑張ってたのに」 "ダイエット"。 ぽっちゃりもしていない体型の彼女には不適切な単語。 「重くて、ごめん。ここからは私が島津君をおんぶするから、もういいよ」 いやいやいやいや、佐藤、それは無理だろ。 しかし、真剣に提案をする佐藤には心底呆れ、俺は半ば強引に彼女を持ち上げると再び走り出した。 「笑わせんなよ」 「私は本気だよ」 「佐藤さんは重くありません。だから俺がおぶります。ほら、これでいい?」 「……何か、納得いかない」 そうして残りの分はというと、クジで引き当てたおんぶのまま、俺達はドベとしてゴールに飛び込んだ。 ハプニングを挟みつつも、あっという間に終了だった。 でもまだ俺は彼女を手放したくなくて、突っ立ったまま無言になる。 佐藤も、何も言わなかった。 いつの間にか力が込められていた手を解かれるのが怖くて、どうすることもできない。 すると、コツン――。 肩の上に顔が乗せられる重みを感じた。 「……どした」 確認しようとそろり横を向くと、俺の頬は確かに彼女の唇にぶつかり……瞬間、全ての時間が止まる。 あ……。
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