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ごめん、と謝る前に、言葉なく首を振られた。
きっと本人同士にしか分からないくらい一瞬のことで、周りは変わらずガヤついている。
でも今、確かに……
「佐藤、さっきのは」
「そろそろ下ろして」
「なぁ、今俺、お前に……」
――キス、された。
思考回路はろくに回らないのに、確認せずにはいられない。
事故でもいい、ただ本人に自覚していてほしいと思う俺は、嫌な奴。
しかし、開口一番に再度遮られてしまった。
「島津君ごめん。……頬っぺた、後で拭いておいて」
消え入るような声を絞り出す彼女の表情が、思い浮かぶ。
「こっちこそごめん。さっきのは俺が悪かった」
「ううん。……じゃ、下ろ……して」
応援席に戻ると、明らかにホッとしている様子の溝田が、佐藤のことを待ちわびていた。
自分の水筒を差出し、労いの言葉をかけている。
そんな二人の様子を、俺は応援スタンドの隅からぼんやり眺めるだけ。
言葉に出来ない想いは膨らみ、心は締め付けられる。
彼氏のいる子だし、そう遠くない日に転校だって控えているのに。
「佑馬君、頬っぺたばっか触って痒いの?」
「ううん。ちょっと痛いだけ」
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