世界を犠牲に、手に入れたモノ

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神保原との帰り道は、彼女の家にお邪魔して『HEART』について語り合うのが常。 もちろん俺達は怪しまれるような間柄ではない。 異世界に恋人を持つ"同志"、と言った所だろうか? 低身長天パのゲームオタク、溝田圭吾と、地味っ子秀才眼鏡の神保原ウミ子。 最初からお互いがタイプではない。 俺は佐藤さんのような可愛らしい子が好きで、神保原はコウタロウのような元気な奴が好み。 「コウタロウ君はね、付き合っていても私とは寝たくないのよ」 苦いウーロン茶を飲みながら、神保原は一つに結っていた髪を解く。 サラリと零れ落ちた黒髪は艶やかで、分厚い眼鏡を外せば色っぽくも見えなくはない。 「まぁ、それは仕方のないことだろ」 「分かってる、だから割り切ってるわ。私はユメちゃんの代わりだと思われるだけでもいいって」 「今でもコウタロウはユメちゃんのことが好きだって?」 「えぇ、私を抱いている最中によく言うわね。酷い人でしょう」 何も言えなかった。 それでもコウタロウの傍を離れない神保原のことを考えると、居たたまれない気持ちになる。 「……どんまい」 「哀れまないで。もうとっくに慣れたことよ」 俺だって年頃の男。 大好きな佐藤さんとのあんなことやこんなこと、考えたりする。 「でも、溝田君も佐藤さんのことを脅して捕えたんでしょう」 「ちょっ、その狩りみたいな言い方は」 「油断しない方がいいと思う。心を手に入れるのは簡単じゃないわ」 「そのくらい……知ってる」 知ってる。 知ってる。 知ってた。 ……いや、殆ど考えたことなかった。 佐藤さんはまだ島津のことが好き? 付き合うようになってから、彼女のそのような素振りは、今まで一度も見たことがない。 体育祭の障害物競争では妬いたが、心配するようなことは何もなかった。 それに佐藤さんは寧ろ、俺のことを好きになろうと日々努力をしているようにも――。 だから、以降世界を壊そうとしたことはなかったし、俺は平凡な高校生としてリア充ライフを楽しんでいたのだ。 ヒヤッとさせるな神保原。 佐藤さんは浮気をするような人じゃないからな。
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