世界を犠牲に、手に入れたモノ

24/31
前へ
/253ページ
次へ
「コウタロウ君を好きな気持ちは、誰にも負けない」 「俺だって島津より佐藤さんことが好き」 きっとそのうち壊れる世界に、俺と神保原は大事な人を作ってしまった。 幸か不幸か。 現実逃避の為の『HEART』と厳しい現実を、どこまでどう区別するのか。 チラリ、チラリ、終わりを意識しながらも、俺達は『HEART』をとても大切に思っていたんだ。 世界を破壊し、自らタイムリミットを近付けようとも、自分の想う人と長い時間を過ごしたかったんだ。 「あれ?この写真」 ふと、本棚の上に置かれた写真立てが気になって手に取ると、見たことあるような顔を見つけた。 「家族写真だけれど、どうかしたの」 「これって、神保原と両親……だよな。この女の人、お母さん?」 「えぇ、そうよ。私が小学校に上がる前に、交通事故で他界してしまったのだけれどね」 公園で撮られた写真の中には、おさげで仏頂面の神保原と、イケメン風だが格好が残念な父。 ――そして、どこかで見たことのあるような、活発そうに見える母。 キツネ目と大きな口。 何かが引っかかる。 「神保原、俺、お前のお母さん知ってるような気がするんだけど」 「え、何言ってるの」 「いやホント、会ったことある気がする」 「……ふぅん、まぁいいわ。信じられないけれど、思い出したら教えて頂戴」 適当に返事をする彼女を横に、俺はもう一度写真の女性に見入る。 確かにこの笑顔に覚えはあった。 「母のことはあまり知らないわ。母が亡くなったことは父にとって多大なるショックで、以後父は母のことを何も喋らないの」 「何だよそれ」 「哀しみが大き過ぎて、父は母の"死"を受け入れられなかったのよ。何年経ってもそう。傍で見てきた私は分かるの」 当時の記憶がほぼ存在しない神保原にとって、写真の女性は母親だと言っても他人のように見えるらしい。 「お前の家、大変なんだな。深いこと聞いてごめん」 「別に。隠してるわけじゃないし」 ニッと歯を見せる女性を、神保原の父親は微笑みを浮かべながら肩を抱いていた。 ――ただのゲームの作り手じゃなかったんだ……。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加