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「……って話を、神保原としてたんだよ」
『それは不思議な話ですね。溝田様が忘れているだけで、以前その女性と面識があったのかもしれませんね』
彼女の家での話をすると、愛本は単調にうーん、と唸る。
「父親は『HEART』を作った理由を秘密にしてるみたいだし、俺は母親と関係がある気がすんだよなぁ」
『謎ですね』
「気になるわぁ」
体育祭も終わり一段落、最近は雨が多くなってきた。
湿っぽい空気は好きじゃないのだろう、最近佐藤さんには元気が見えない。
雨の中外へ連れ出すのも気が引けて、デートも遠出できず、俺も複雑な気分。
――どこかパーッと遊びに行きたいのに。
「今週末も雨って言ってたっけ」
「多分そうだったと思うよ。もうすっかり梅雨の季節だもんね」
手を繋いで彼女を送り届ける、帰り道。
雨の日には決まって佐藤さんの持ってきたオレンジ色の傘で相合傘。
自分の傘を広げようとしない俺に、彼女は何も言わずにただ笑うばかりだった。
「佐藤さんはどこか行きたい所、ない?」
「私……?うーん、そうだなぁ」
「どこでもいいから言ってみてよ」
「ちょっと待ってね」
しかし、それから始まる、沈黙。
考える素振りをしても、一向に返事は聞こえない。
確かにゲーム内でリア充の俺は、今まで何度も彼女を町に連れ出していたし、返事に困るのは当たり前のことなのだが。
――それでも……ねぇ。
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