世界を犠牲に、手に入れたモノ

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翌日、天気予報では午後から雷雨。 空は灰色に青を混ぜたような鉄紺色。 暑い。 ムシムシする。 ――梅雨なんて誰もが嫌な季節の設定、いっそなくしてしまえばよかったのに。 生徒が増えるまで愛本に愚痴をこぼしながら学校へ向かうと、ジャージ姿の島津が昇降口横の水道で顔を洗っていた。 この曇天の中でも、あいつは一人清々しそう。 「水泳部、朝練始まったらしいな」 「おう、体力つけるためにランニングだって。でも、朝体動かすって気持ち良いよなぁ」 島津は暗い空を見上げながら、キラキラした瞳で目を細める。 俺はこいつが後ろ向きなことを言ったり、暗い顔をしている姿を見たことがない。 どんだけポジティブ野郎なんだ。 本来あるべき佐藤さんとの未来を見ることなく、島津は新たな未来を自分で切り開いていかなければならなかった。 何も知らない本人はニコニコしているが、俺は、知ってる。 「来る時は一緒に来てないんだな」 「は?」 「佐藤。帰る時はいつも一緒だから」 「よく見てんだな」 「別にー。ちょうど部活行く時間と重なるから」 島津にはまだ新しい彼女がいない。 作ろうと思えば選り取り見取りだし、近くには愛らしい桜子ちゃんだっているのに。 「島津、彼女作んないの?」 「突然どうしたんだよ」 「……いや、この間コウタロウが、いい加減彼女の一人くらい作ればいいのにってほざいてたから」
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