世界を犠牲に、手に入れたモノ

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神保原の世界では辛い思いをしているだろう水内コウタロウは、俺の世界では彼女オンリーラブの馬鹿。 一人の人間なのに、違う世界にも存在し、人生を送る。 それは今まで俺が散々やってきた、平面世界のゲームだって同じなのに、感じ方は異なる。 心を持ち過ぎた彼らは、人間でないただの機械とは一概に言えない。 「好きな人はいるよ」 ポツリ、タオルで顔を拭った島津は、先を歩きながら軽く笑う。 「でも、彼氏がいるから」 「……奪う気は」 「うん、それも考えた。でも、やっぱ駄目だろ、あからさまにそういうことは出来ない」 隠すわけでなく、サラリと気持ちをオープンにするその様は潔い。 もし俺が佐藤さんを脅して捕えたんだと知ったら、こいつはどう思うのだろう。 こんな卑怯なやり方、許されるはずがない。 「まぁ、今は駄目でも、いつか好きになってくれるのをボチボチ待つかなぁ」 「その子じゃなきゃいけないわけ?」 彼女よりもっと可愛い子はいる。 話し上手で、スポーツマンで、秀才な女の子だって……。 それなのに、島津は――。 「俺、その子の笑顔がすっげー好きだから。今は他とか無理」 だから、二人の邪魔する気はなく、このモテモテ野郎は馬鹿みたいにずっと一人の子を待ってるんだと。 ――リア充のくせに、自分から青春台無しにするなんて、阿保くせぇ。 さっさと新しい彼女作って、イチャイチャすればいいのに。 こんな完璧で人間的にも尊敬できるレベルの奴、『HEART』の中に組み込むなよ。 良い奴って本当に面倒臭い。 リア充のくせに……。 「じゃあもしその子が、彼氏じゃなくて島津のことが好きだって言ってきたら」 「即行付き合う。だって俺も好きだもん」 まぁ、そんなハッピーなことなんて起きねぇよ。 「それに、待ってられるのも時間の問題だし」 「え、時間の問題って……?」 「ううん、こっちの話」 彼女かぁいいなぁ、とわざと肩を落とし、ふざけた反応をする島津は、やがて前方からやって来る"その子"に向かって大きく手を振った。 「佐藤、おはよ」
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