世界を犠牲に、手に入れたモノ

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正直島津には頭を下げたい。 でも残念ながら俺は、あいつみたいに真っ直ぐな性格ではない。 これまで散々見下され、底辺で生きてきたが故に、どこかねじ曲がっている。 歪んだ愛を本物だと信じ、手に入れるのに必死。 心に余裕はなかった。 だから俺は今、完璧な奴が好きな女の子と、あいつではなく自分が付き合っているんだって、優越感に浸っている。 ――分かってる、最低だ。 「佐藤さん、今日うちに寄ってかない?」 「溝田君の家に?……何で」 悪気なく聞き返される"何で"にはもう傷付かない。 島津のいる前でわざわざ言うことではないのに、無性に楽しくなってしまって、俺は開いた口を止めることが出来なかった。 「付き合ってもう三ヶ月経ったし、そろそろ色々といいかなって思って」 「え?」 「まぁ、色々だよ。察して」 「……あぁ、そっか。うん、確かに溝田君の家族にも、まだちゃんとご挨拶してなかったよね」 的外れな方に解釈されてしまったが、佐藤さんはいいよ、と快く了承してくれたようだ。 そんな彼女の横で、こちらの伝えたい意味を分かっている島津は、少し焦ってる……? しかし口を挟むことなく、俺達を置いてさっさと他の集団の中に入っていく。 推測するに、聞きたくなかったのだろう。 「じゃあ今日はうちに寄ってくってことで」 最低だと分かっていながら、楽しいと思ってしまう、正反対の感情はどう言ったらいいのか。 でも、こういう気持ちは、誰にでもあるものではないのだろうか。 ……それにしても、どうしよう! 咄嗟に家に誘っちゃったけど、俺の方もまだ心の準備が……。 ――うわーっマジ、どうしよ! キスもまだしてないのに! いきなり家とか早過ぎた!? 大丈夫だよな、佐藤さんもノリ気だったし。 ……や、あっちはただ挨拶に寄るって思ってるだけだけど。 いやでも彼女だし、もう付き合って三ヶ月経ったし。 遊びじゃないし、本気だし。 そろそろ俺らも、神保原とコウタロウみたいに……。 楽しんでいるのは自分だけ。 それはこのゲームの所有者なんだから、当たり前なのかもしれない。 でも俺は、佐藤さんの気持ちも島津の気持ちも考えられない、最低クズ野郎。
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