世界を犠牲に、手に入れたモノ

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「リアルの俺はブサイクで自分に自信のない人間だけど、佐藤さんに出会ってからは前よりマシになったよ」 島津にだって、今はこうでも、いつかは悪かったって思える日がくるはず。 俺は着実に変われている。 だからこそ、一緒にいたい。 これからもずっと一緒にいて欲しい。 「俺……佐藤さんのことが好き」 伸ばした手で彼女の肩を掴み、ギュッと抱き寄せてみる。 こんなにも簡単に、すっぽり胸に収まるなんて、実践してみなければ分からなかった。 「俺は完璧じゃないし、嫌な所もすっげーいっぱいあるけど、佐藤さんを想う気持ちは負けない」 無言で固まる彼女を強く抱きしめ、頬を摺り寄せると、その柔らかな感触に思わずビビって震えてしまった。 しかし、反応はない。 全くと言っていい程力は入っておらず、抵抗される気配はなかった。 「佐藤さん?」 「……なぁに」 「やめてって拒絶されなくて、よかった」 シンと静まり返った薄暗い部屋の中、二人の小声だけが微かに漏れる。 窓に目を向けると、ポツリポツリ雨が降り始めた。 音のない雨。 「キス、してもいい?」 返事はなかったが――流れに任せるように唇を重ねると、俺はゆっくり目を閉じた。 求めるように首の角度を変えると、同じような反応は返されないものの、嫌がられはしない。 どうなんだろう。 付き合うようになって、着実に心の距離を縮められていたのかもしれない。 何これ順調じゃん! 超いい感じじゃねーの!? 心臓バクバクで触れる体はやっぱりすごく柔らかくて、興奮する。 でもこれから俺は、やっと初めての……。 真剣さの向こうにあるいやらしさにドキドキしながら、深呼吸。 しかし、いざこれからって時に、佐藤さんは突如俺を突き放したのだ。 「やっぱりごめん、帰る」 「え、何でいきなり」 「用事……思い出した、から」
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