世界を犠牲に、手に入れたモノ

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逃げたな、とは思った。 それでも自分を受け入れようとしてくれた事実は否定出来なくて、俺はその日彼女を笑顔で見送った。 「愛本、俺、佐藤さんとキスした」 『知ってます、見ていましたから』 「このー、一応プライベートだぞー」 何だかんだ言いながら初めてのチュー。 テンションは上がるし、上機嫌。 "好き"という気持ちの心地良さがたまらない。 「人を愛するって良いことなんだな。お互いハッピー、みたいな?」 『それは相思相愛の場合ですよ』 「はぁ?それって俺が片想いしてるっていう意味」 ベットに寝転んで呑気に漫画のページを捲っていると、愛本は中々返事をしない。 まるで、先ほどの佐藤さんのよう。 「ちょ、愛本?スルーは禁止だろ」 『いえ、そういうのではなく……私、見てしまったんです』 抱き締めている時、唇を重ね、俺が目を瞑っている瞬間、彼女がどんな表情をしていたのか。 色のない瞳で窓の外を見ていたこと。 俺を心から受け入れているわけではない、ということ。 『佐藤さんは、今でも島津佑馬さんのことが好きなんだと思います』 「人が気分良い時に、ふざけたこと言うんじゃねぇよ」 『私は事実を言っているだけです。佐藤さんが溝田様のことを好きになろうと努力をしているのは分りました。ですが、彼女は……』 関係ないよ。 愛本の言葉も、全部は受け入れない。 佐藤さんが誰を好きだろうと、俺のことを見てくれているならばそれでいい。 だって俺は、既に彼女を手に入れてるんだ。
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