世界と理由と、彼らの存在に――

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その後、男はチャイムが鳴ると舌打ちをして去り、入れ替わるように猛ダッシュでキモトが駆け寄ってきた。 教室から三十メートル程の距離なのに、額には汗が滲んでいる。 しかし、俺の額も同様に、じんわり汗で濡れていた。 「圭吾、大丈夫かよ」 「キモト……もしかしてさっきの見てた?」 ポッチャリでも容貌魁偉なキモトだが、今は猫背になって目を合わせようとしない。 「すまん、怖くて助けに行けなかった」 「やっぱり」 「ごめんな」 「キモトに助けてもらおうとか思ってないし、大丈夫」 それに、もし俺がキモトの立場であっても、あの刺々しい空間には入れなかっただろう。 気の毒に思い、後でねぎらいの言葉をかけるくらいだろうか……。 だって俺達は弱いのだ。 「圭吾、これからどうすんの」 「どうって、別に何も……でも、困ったよな」 あれは宣戦布告だと捕えてよいのだろうか。 別に、この学校でカッコ悪い姿を見せたくない人はいないし、失う友達もいないから困りはしない。 只々、散々な目に合い、笑われるだけだろう。 「でも、まさかあいつから再び絡まれる時がくるって、俺もついてないね」 御託を並べ、俺を馬鹿にし、したり顔をしていたあの男。 弱者をどん底に突き落とすことが、そんなに楽しいのだろうか。 俺なんかを支配して、縛りつけて、何の特になる。 個人の自由を奪う人間って――。
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