世界と理由と、彼らの存在に――

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「まだ一ヶ月あるから大丈夫だよ」 「桜子ちゃんなら佑馬君落とせるって」 次々に飛んでくる仲間の励ましに、桜子ちゃんは長い髪を揺らして首を振る。 でも、寂しいね、と言った私には、すぐさま口を開かれた。 「溝田君がいるじゃん」 最初は早口に、そして次にはハッキリと何かを突きつけられてしまった。 「可純ちゃんには溝田君がいるんだから、寂しくないじゃん」 「それとこれとは……」 「何かやだ。彼氏いるんだから、一緒にしないで」 トモミと同じように、私にもきつい言い方をするようになった桜子ちゃんとは、学年が上がってから殆ど関わる機会がないままだった。 体育祭で島津君と障害物競争のペアになった私を見ている時も、トモミ曰く相当な言われようだったらしい。 でも、きっとそれくらい、桜子ちゃんは島津君のことが好きなんだ。 凄いな、と思う。 真っ直ぐな彼女は、自分と違って格好良いくらい。 「……そうだね、ごめん」 ――私はそんな風に思っちゃいけない。 歪な隙間風に、図書委員の棘のある言葉、桜子ちゃんの咎めるような視線を振り払い、私は早足に図書室を後にする。 付き合っている人がいるのに、自分は片想いをする彼女と同じ立場だと思っていた。 怖い想いをしたが故に、溝田君との交際に至って、数ヵ月。 彼とはそれなりに楽しい日々を送ってきたし、迫られるままに唇だって許してしまった。 でも、それ以上でもそれ以下でもない。 付き合うって、こんなものかなって気になりきって、笑って。 相手のことを知ろうと頑張って、笑って。 笑っている時、溝田君はいつも嬉しそうだった。
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