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その日の放課後、うちの教室に現れた島津君は、誰でもなく私の席の前に立つとこちらを見下ろしてきた。
「佐藤、ちょっといい?」
「え?」
「ジュース奢るから付き合ってよ」
そろっと目を逸らしたこちらにはそれ以上何も言わずに、彼は離れた席の溝田君に軽く断りを入れると、教室を出ていく。
ついて来い、という意味なのだろうか。
「島津君、今日部活は?」
「あるよ」
――どうしたんだろう。
今まで無かった出来事に、単純に動揺する。
加えて昼休みの桜子ちゃんの件もあった為、凄く人目が気になった。
それでも、こんな風に連れ出してもらえる行為に、拒否なんて有り得ない。
「佐藤っていつもオレンジジュースだったよね」
売店外にある自販機まで来ると、島津君はパックのジュースを一本だけ買って差し出してきた。
「いいよ、お金は自分で」
「いい。そこ、座ろ」
吹きさらしのベンチからは、空の荒れる様子が直に伝わる。
足元には雨粒が落ちてきて、スリッパと靴下を徐々に濡らしてゆく。
「昼休みに佐藤のクラスに行ったんだ。そこでトモミには伝えたんだけど」
「……それってもしかして、転校の?」
「あれ、もうトモミから聞いてた?佐藤には話してなかったから、今時間作ってもらったんだけど」
「ううん、桜子ちゃん達が話してるの聞こえて。それで」
そっかぁ、と島津君は微笑すると、濡れると分かっているのに足を伸ばす。
「濡れるよ」
「どうでもいいよ」
投げやりにも聞こえる言い方で笑いながら、彼は荒れた空を見上げて一息つく。
「うち、父親がいないって佐藤には話してたじゃん。でね、近々母親が再婚するらしくてさ」
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