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「こんなことしてごめん」
らしからぬ行動を後悔するかのように、島津君は掴んでいた腕を離すとこちらを見下ろす。
しかし、暗闇に覆われていて、どんな顔をしているのかは分からない。
「佐藤は溝田と付き合ってるんだから、ずっと黙って見てようと思ってたけど、やっぱ無理」
状況が掴めずに微動だにしない私の頬に、島津君の指先が触れる。
途端、ビクッと肩を震わせても、彼は言葉を続けた。
「知っててほしいだけだから言うけど、俺は佐藤のことが好きなんだ」
――は……。
「俺は、佐藤のことが好き」
「……島、津君」
「返事求めてるわけじゃないし、二人のこと邪魔するつもりもないから。でも、俺の気持ち、知ってほしかった」
好きなんだって。
知ってほしかったって。
ずっと好きだと思っていたのは私の方で、ずっと彼に片想いをしていたのは、私。
なのに、両手で頬を包み込む彼の熱を感じずには入られなくて、自分も手を重ねてしまった。
「嘘……じゃ」
「何も思ってない人にこんなことしない」
「でも」
「俺は佐藤の笑った顔が好き。プールに落ちたあの時から、ずっと気になってた」
言葉を受け止める余裕はなく、相手に伝わってしまいそうな程に高鳴る鼓動を落ち着けようとしても無理だった。
「こんな所に引っ張って来てあれだけど、言いたかったのはそれだけ」
「……」
「ごめんね。出よっか」
それなのに、島津君が私から離れてしまう最後の瞬間、鼻の頭に柔らかな感触を覚えた。
あれは、多分……。
――ううん、考え過ぎだ。
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