世界と理由と、彼らの存在に――

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恐る恐る愛本に状況を確認してみると、今は高校三年の春。 神保原は大学進学を目指す為、一番頭の良いクラスに所属しているらしい。 『神保原様は現実の方でも勉学に励まれているのですよね。本当に偉いと思います』 「……勉強が趣味だから」 適当にあいつっぽいことを言うと、愛本は以前も言われていましたね、とすぐ返してきた。 学校までの道のりは同じで、特に何の変化もなかったが、やがて俺には信じられない光景が飛び込んできた。 目の前が鉛色に濁り、喉元が熱を持つ。 分かっていた。 教えてもらっていたし、会いたいとも思っていた。 ――なのに、いきなり幸せそうに二人揃って現れるのかよ。 「じゃあ、今日は屋上で食べる?」 「天気も良いしいいね。佐藤の手作り弁当楽しみだー」 肩を並べて登校する島津と佐藤さんは、微笑ましいくらい幸せそうな笑顔。 俺が佐藤さんを横取りしなければ、島津は転校することなく地元に残ったままだったんだ。 知らず知らずのうちに、二人を離れ離れの運命にさせてしまったのは、紛れもなく自分の存在だった。 「あ、ウミ子ちゃんおはよう」 俺の存在に気が付いた佐藤は、走って近寄って来る。 軽やかな足取りに、本来の彼女の明るさが見えた。 「……朝から幸せそうね」 「や、やだなぁ。そんなことないよ、偶然会っただけ」 「うわー、そんな言い方する?今日はたまたまってだけで、最近待ち合わせて一緒に登校してんじゃん」 佐藤さんの肩に手を置き、ニコニコする島津。 ――この野郎、今すぐその手を離しやがれ。 会ってみたいと思ったはずなのに、この時点でムシャクシャする。
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