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『HEART』内と現実世界の時間の消費は同じとなることから、俺はそこ一時間くらいでリアルに戻ると、持っていたペットボトルの水を飲み干した。
やけに喉が渇いていた。
「コウタロウ君や可純ちゃん達とは会えた?」
「会ったよ。愛本から神保原様って呼ばれるのは違和感があったな」
「そう」
特に感想を求められることなく、その日俺は自分の家へ帰ると『HEART』に行き、翌日大きな本体を巨大な袋に入れて家を出た。
最新の注意を払う必要がある。
本体はロープで荷台に括り付け、学校までは自転車を押して行く。
正直、神保原に『HEART』を貸した所で、良い気はしないと思う。
ユメちゃんとラブラブなコウタロウを見て、自分みたいに悔しい思いをするに間違いない。
そして――自分は罪を犯しているんだ。
俺の場合、良心の呵責を感じ、昨日は佐藤さんの肩に手を回すことが出来なかった。
「おはよう溝田君、さっそく持って来てくれたのね。大変だったでしょう」
駐輪場で顔を合わせた神保原は、『HEART』を見ると深く頭を下げる。
「ありがとう。天気が良かったならば、明日にでも返すわ」
「おう。一つ昨日思ったんだけど、神保原になりきるのに口調合わせるのが手こずった。お前は溝田圭吾になるんだから、くれぐれも女っぽい言葉使うなよ」
「分かってるわ。馬鹿じゃないんだから、それくらい楽勝よ」
いや、楽勝だぜ、かしら……などと練習する様子にはちょっと不安。
でもまさか親友のキモト以外で、それも女子とゲームの交換をするなんて、以前の自分よりはコミュニケーション能力が上がったような。
これって、喜ばしいことだよな?
……なんて、呑気なことを考えている時だった。
「それ、ゲーム?学校に持って来ていいんですかー」
その耳通りの悪いガラガラ声が聞こえた瞬間、俺の背筋に一筋の汗が伝った。
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