世界と理由と、彼らの存在に――

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-島津佑馬 まさかこんな気持ちのまま、あのような惨事に見舞われるなど、この時の俺は一ミリたりとも勘付いていなかった。 * 咄嗟の気持ちの高ぶりで、秘めているはずだった想いを、佐藤本人に告げてしまった。 でも、俺達の関係は何も変わらない。 寧ろ、以前より警戒心を持たれてしまった。 もう目さえ見てくれないか。 そこまでするか。 「佑馬君、お誕生日おめでとう」 七月七日、七夕の日は雨の匂いのしない好天に恵まれた。 教室に入るとプレゼントらしき包みを差し出してきた桜子に、お礼を言いながら中を確認する。 スポーツブランドのタオルと、手作りクッキー……? 「気ぃ使わなくてよかったのに」 「私の気持ちだもん。はい、受け取ってね」 自宅に帰る頃には、母がお祝いの料理を作り、ホシさんと共に俺の帰宅を待っていることだろう。 思い描いていた暖かな家族までもう一歩。 つい最近レンタルビデオ店での夜の仕事を辞めた母と共に、俺も幼き頃から愛用していたクタクタのエプロンをつけて料理をする機会も、めっきり減っていた。 「佑馬、誕生日おめでと!」 「え、コウタロウからもプレゼント?」 昨年は貰わなかったし、お互い贈り物をするような関係ではなかったのに。 「あ、傾けんなよ」 桜子よりも重量のある大きな包み。 「開けていい?」 「おう、見て驚くなよ。俺等の最高傑作だぜ」
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